crossover

カーボンナノチューブ
×高性能樹脂「CBZ」が
ものづくりを新たな高みへ

日本ユピカ × カーボンフライ 座談会

カーボンフライは日本ユピカ(株)と提携を結び、同社のコンポジット用熱硬化性樹脂「CBZ」と
カーボンナノチューブ(以降、CNTと表記)の複合材料の生産に乗り出しました。
今回、両社の代表ほか、それぞれの素材の開発や販売に携わるスタッフが集まり、
両社の出会いや素材にかける期待、今後の展望を語り合いました。

Japan U-pica.co.ltd
日本ユピカ株式会社
研究開発型のメーカーとして、お客様と一体になってニーズに合った製品開発を進め、住宅設備、自動車・車輌部品、電気材料部品、塗料分野、電子・光学部品等の素材を広く社会に提供しています。また、溶剤を使用しない紫外線・電子線で硬化する樹脂や粉体塗料用樹脂、バイオマス原料を使用した樹脂など地球環境にも貢献した製品も提供しています。

propertiesカーボン黎明期に関わった2人が出会い、
手を組んだ

大塚

カーボン材料には若い頃から思いがありました。私は1980年代に三菱ガス化学(株)で炭素繊維の開発に携わり、アメリカへ商談にも行きました。 早くからNASAなどがカーボンに注目していましたからね。その後、C/Cコンポジットにも関わり、カーボンの可能性を強く感じていました。 それから30年余経った今、日本ユピカの社長としてテンさんや皆さんと出会い、最先端のCNTに取り組むことになった。非常にハッピーです。

テン

カーボン材料の成長期に関わられたのですね。とても親近感を覚えます。僕もCNTで近い経験をしてきたので。
2000年代初め、僕が大学修士の時、所属した研究室の先生が透過型電子顕微鏡を使って、金属を強い電流で溶かして飴のように伸ばし、 原子1列の糸にする実験をやっていました。

ある時、助手の先生が「これ、カーボンでやればCNTができるのでは」と。 当時CNTの生成には高温・高圧の環境や触媒が必要とされており、電子顕微鏡の中で作れれば世界初でした。
僕が手先が器用ということで伸ばす役を引き受け、ひたすらビヨーン、ビヨーンとやっていたら、本当に筒状のCNTが1本でき、 学会に発表して賞をいただきました。実は僕はその頃CNTについて何も知らない状態で、そこから懸命に勉強しました。
その後、2010年にアメリカのデラウェア大学にポストドクターで入り、強度の向上と安定させる方法など、研究を続けてきました。 ちょうどアメリカでは、航空宇宙分野の構造材料としてCNTが注目され、広く研究が始まった時期でした。

大塚

今、その成果が形になってきた。

テン

もう、御社あってのことです。

大塚

私が御社で最初にお会いしたのは川尻さんでしたね。ユピカの社長になって間もない頃、素材の勉強をしようと展示会に行った時です。

川尻

そうでした。たまたま顔を合わせてお話を。

大塚

川尻さんが「御社のCBZいいですねえ、どんどん使いたいです」と。当時、CNTについては知っていましたが、川尻さんの語りが調子いいので、本物だとは思いませんでした(笑)。

川尻

危なかった!(笑)。そこからここまで来れたのは、御社の皆さんのおかげです。ありがとうございます。

大塚

会社同士のお付き合いは、私がユピカに来る前からですよね。

川村

私がある商社のご紹介で初めてここに来た時、「こんにちは!」とすごく元気に迎えてくれた方がいて、化学業界には珍しいタイプの会社だなあと。その後テンさんが来てガチの話が始まり(笑)、「どうやら本物らしい」と思いました。これが最初の印象です。
我々も新しいことには積極的で、CBZの可能性も広げたいので、CNTは面白い世界です。今ではどっぷり浸かっています。

大塚

御社は応対が非常に気持ちよく、サンプルを送ってくれる対応などにフットワークの軽さを感じたと、諸岩にも聞いております。

諸岩

(うなずく)

川尻

諸岩さんたちは非常に紳士的で、しかも熱意を込めて「一緒にやろう」とおっしゃってくれたことに感銘を受けました。「こんな会社があったのか」と嬉しかったですね。

テン

本当に素敵なチームですね。

properties従来カーボン素材を大きく超えるCNTの可能性

テン

最近、国内外の学会でCNTの講演をする機会が増えており、期待の高まりを感じます。
複合材料の世界では、半世紀前にできた炭素繊維以来、時々話題を呼ぶ素材は出るものの、主役級の新素材がありませんでした。そんな中で「ようやく」という思いがあるようです。
CNTのポテンシャルの最大値は分かっているので、一日も早くそこまで引き上げ、いろんな業界で使ってもらいたい。今後1、2年で行けると思っています。

大塚

産業界から注目されるのは頼もしいですね。私が最初にカーボンに携わった頃、例えば航空機のブレーキディスクが大きな課題でした。熱伝導や粘性など非常に高い性能を求められ、開発コストもすごかった。

テン

機能性材料としてのポテンシャルもCNTは高いです。航空機で言えば、電気を通すと瞬時に温度が上がるので、主翼の一部に使って上空で氷を溶かすとか。

大塚

マイナス50度くらいの環境でもCNTのシートは発熱するんですか。

テン

我々が作る不純物なしのCNTなら、液体窒素の中でも大丈夫。しかも硬化せずフニャフニャのままです。

大塚

それはすごい。

テン

炭素繊維と複合できるのも強みです。ほんの「味の素」程度で性能を押し上げたり、機能性を加えたりできます。

大塚

EV用のバッテリーにも使われているようですね。

テン

炭中国のバッテリー産業では、CNTは数兆円のマーケットになっています。

大塚

バッテリーにとっては、どんなメリットが?

テン

従来リチウムバッテリーの導電助剤はカーボンブラックが主流でしたが、CNTにすると少なくとも3つのアドバンテージがあると言われています。
まず、寿命が伸びます。バッテリーを充放電すると内部で膨張・収縮を繰り返し、「導電パス」という電気の通り道が少しづつ切れて性能が落ちていく。でも、繊維の構造を持つCNTなら導電パスが切れにくく、長持ちします。
それから、容量が増えます。従来素材の10分の1の量で性能を発揮するので。その分電気を起こす「活物質」を増やして発電容量を上げられます。スマートフォンの稼働時間も、EV(電気自動車)の走行距離も伸ばせます。
さらに、急速充電・放電に強くなります。CNTは電気伝導率や耐電流・耐電圧密度が桁違いで、大きな電気を流してもダメージを受けにくい。EVの場合は放電量がそのままトルクに変わるので、車のパワーも上げられます。
ただし、この3つをちゃんと引き出せているCNTはまだ多くありません。

大塚

現在中国などで量産されているCNTは「不純物」を含んでいるから…。

テン

我々以外の方法で作ったCNTは、生成時に加えた金属触媒を完全には除去できないので、電気伝導率が低い。急速充放電による化学反応も起きやすく、安全性の問題もあります。それでも「カーボンブラックよりは良い」という理由で使われています。
我々は今、日本の企業と協力して、3つのアドバンテージを出せるよう開発を進めています。

propertiesCBZとのタッグで、
新たな材料の世界へ「シフト」

Q.
先生が携わった衛星では、今までどのような実証実験をされてきたのでしょうか。

能見

まず1基目は、STARS(愛称:KUKAI)と名付け、は、2005年にスタートし、2009年に打ち上げられました。内容としては、テザーの先端にロボットをつけて、テザーにぶら下がったロボットを姿勢制御し、衛星の写真を撮ろうというものでした。その時のテザーはなんとか伸長に成功しました。
2基目は2014年に打ち上げられたSTARS-Ⅱ(愛称:GENNAI)です。このときは導電性テザーに取り組みました。 JAXAがこうのとり(宇宙ステーションへ物資を運ぶための無人輸送機)で実験するために作った無結束テザー(網状)を宇宙空間で300m伸長というものでしたが、 メインのマイコンが動かなくて…打ち上げてから3日目くらいに太陽活動がすごく激しくなって、放射線でおかしくなってしまったのではと言われてはいるのですが。それでもテザー伸長のところは別のマイコンを仕掛けてあって、それを使って伸ばしました。本当はGPSのデータを使ってどれくらい伸長したか測ろうと考えていたのですが、メインのマイコンを駄目にしてしまったので、データは取れませんでした。ただ、大気圏へ再突入するまでの期間からシュミレーションして、300mは伸びたということは分かっています。燃料を積まない衛星は、空気抵抗を受けて次第に大気圏へ落ちていくのですが、2ヶ月という短い期間で再突入しました。1基目のKUKAIは高度560kmに打ち上げたので空気抵抗が非常に少なかったのですが、STARS-Ⅱは高度400kmに打ち上げたので、それより早く再突入するのは最初から分かっていました。

それでも、同時に打ち上げた他大学の衛星と比べてもかなり早く再突入したということで、テザーが伸びて空気抵抗が強まっていたからだという結論に至っています。 ここまでが香川大学で、2014年の4月に静岡大学に移りました。
静岡大学で初めて作ったのが、3基目のSTARS-C(愛称:はごろも)です。ここから、CubeSatの規格に則ったサイズになっています。
4基目は2016年でテザーを100m伸長しようというもの。STARS-Ⅱの反省を生かし、テザー伸長用に独立した強いマイコンを付け、70~80mは伸長しました。これはスプール型といってバネの力を使って伸ばしていくものだったのですが、少し力が足りず、100mには至りませんでした。バネが強すぎると逆に戻ってきてしまうので、強ければいいというものでもありません。これは2018年に大気圏へ再突入しています。
5基目がSTARS-Me(愛称:てんりゅう)という衛星です。これは2018年に国際宇宙ステーションから放出されました。この頃には宇宙ゴミがかなり問題視され、導電性テザーを使って衛星を大気圏に落とすことがますます注目された一方で、テザーを伸ばしたことによって他のものに当たってしまうということが叫び始められて、2010年以降、宇宙実験はなかなかできなくなっていました。これまで取り組んできた衛星はテザーを自然に伸ばすというものだったのですが、テザーを伸ばすだけでなく巻き取りましょうというルールになりました。そこで、宇宙エレベーターの実験をやろうということで、クライマーという小さな箱を親機と子機の間につけ、15mくらい伸ばしました。ただアンテナが上手く伸びず、地上から電波を受信してのミッションは実施できませんでした。

地上側のアンテナも、台風でおかしくなってしまったという問題もありましたね。2021年に大気圏へ再突入しています。
6基目は同時期に取り組んでいたのが、Stars-AO(愛称:あおい)です。2018年に打ち上げられました。超高感度カメラで写真を撮り、地上へ送ろうというものでした。こちらはテザーの活用でありませんが。まだ大気圏に突入せず軌道上にいます。
7基目がSTARS-EC(愛称:三光)は3U(ユニット)の衛星です。2021年に国際宇宙ステーションから放出し、その年のうちに再突入しました。前回のSTARS-Meのエレベーターは小さなクライマーでしたが、今回は1U分のクライマーを用意しました。メジャーを使ったテザーの伸長・巻き取りは11m成功しました。エレベーターとしての動作でいうと、課題はありましたが、このときは香川からアマチュア無線家の方を静岡へお呼びして最終調整していただき、通信は成功しています。やはり、アンテナが難しいです。大学衛星は通信が弱いと言われていまして、ここは大きな課題です。 8基目はStars-Me2(愛称:蓬莱)です。これは既に完成しているのですが、国際宇宙ステーションからの打ち上げにむけてロケットへの搭載を待っているところです。

propertiesカーボンナノチューブを、
宇宙へ

そして、現在取り組んでいるのが、STARS-Xです。
これは、高度550m付近へ放出される予定となっています。
今回はまずテザーを伸長し、ネットを広げて宇宙デブリをキャッチする実験を行います。
繰り返しになりますが、実際にデブリに遭遇するのは年に数回なので、
今回は衛星からデブリの代わりとなるものを放出して、
それをキャッチする実験を行う予定です。

Q.
このSTARS-Xに当社もCNT部材の提供という形で参加することになりましたが、そのきっかけを教えてください。

能見

香川大学に所属していたときから超小型衛星に取り組んでいますが、それをビジネスとしてやっていくべきだということで、静岡大学ではベンチャーを立ち上げたんですね。それがSTARS Space Service株式会社です。そこの社長が、カーボンナノチューブ製造ベンチャーをやっている人と会うということで、便乗してついていきました。

Q.
その場で社長のテンが、既存の部材をカーボンナノチューブで製作すれば軽量化できると熱弁したそうですね(笑)

能見

そう。じゃあ試しに作ってみる?という話になりました。具体的なお話を伺うなかで衛星本体のパネル、デブリをキャッチするためのネット、親機と子機を繋ぐテザーを試作することになりました。CNT製というところでは、パネル・ネット・テザー全て世界初ですね。CNT製パネルはアルミに比べてとても軽くて、本当にこれで大丈夫なの?と思ったんだけど、実際に振動・衝撃試験をしたら、全て合格して驚きました。親機と子機を繋ぐテザーについては、既存のベクトランを採用することになったけど、予備実験をしたいと思います。キューブサットを積んで、そこからCNT製テザーを伸長できないかも含め今検討しています。伸長の後、巻き取りができたらこれも世界初になります。

編集後記

能見先生とのご縁により一気に具体化した当社の宇宙事業ですが、ほとんどのスタッフが今回のSTARS-Xのミッションや、そもそも超小型衛星とは?といった全体像をよく知らぬまま必死にパネルやテザー、その周辺機構を作る、材料となるCNTを作る…といった状況でした。そこで、初めての試みとして社内セミナーを開催することにしたのですが、特に技術面で直接携わらないバックオフィスのスタッフには内容が難しすぎるのでは…?と正直心配でした。しかし、実際には能見先生がとても分かりやすくお話しくださり、笑い声の上がる場面もあり、講義というより先生とスタッフとの対話のような時間となりました。裏話も伺え、バックオフィスのスタッフから、「こんな貴重なお話私聞いていいのかな…?贅沢だった!」という声もありました。能見先生ご自身の取り組みだけではなく、どんな事情があって宇宙事業が移り変わっていったかも含めて解説されている点は貴重で、このように社外の方にも共有できること、大変嬉しいです。なんとなく宇宙に興味を持っている方のイメージが、よりリアルになる一助となれば幸いです。このように、見た目はただの黒い物体であるカーボンナノチューブの近い将来を、今後も分かりやすくお伝えしていけたらと考えています。